経営理念の言語化、従業員を巻き込む3つの問い
経営理念を作りたい、という相談をいただくことがあります。多くの場合、社長が一人で言葉を練り上げ、完成したものを朝礼で発表する、という進め方を想定されています。
その方法でも理念はできます。ただ、社員が自分の言葉として使えるようになるかは、また別の話です。今日は、従業員を巻き込みながら理念を言語化するための、3つの問いをご紹介します。
理念づくりのゴールは、立派な文章を作ることではありません。全員が同じ場面で同じ判断ができるようになることです。
問い① 「うちの会社が、お客様に一番喜ばれた瞬間は?」
最初の問いは、抽象論からではなく具体的な場面から入るためのものです。理念や価値観を直接聞くと、どうしても優等生の答えが返ってきます。
数名ずつのグループで、実際にあった出来事を出してもらいます。「納期に間に合わないところを全員で夜通し対応した」「クレームの電話が、最後には感謝で終わった」といった話が出てきます。
そして、次のように掘り下げます。「そのとき、私たちは何を大事にしていたと思いますか?」──ここで出てくる言葉が、理念の素材になります。
問い② 「うちで絶対にやってはいけないことは?」
2つ目は、逆から攻める問いです。「大事にしたいこと」より、「やってはいけないこと」のほうが、実は言葉にしやすいのです。
- お客様に嘘をつく
- できない約束をその場しのぎでする
- 不具合を見て見ぬふりをする
こうした「してはいけないこと」の裏返しが、そのまま守るべき価値になります。禁止の言葉のほうが、日々の判断では機能しやすいという利点もあります。
問い③ 「10年後も、これだけは変えたくないものは?」
3つ目は、時間軸を伸ばす問いです。事業内容も、顧客も、働く人も変わっていきます。その中で変えたくないものは何か。
この問いには、社長ご自身にも答えていただきます。創業の経緯や、続けてきた理由が語られる場面が多く、社員が社長の考えを初めて聞いたという反応が返ってくることも珍しくありません。
言葉にするときの3つの基準
集まった素材を文章にする段階では、次の基準で判断してください。
- 覚えられるか:見ずに言えない理念は、使われません
- 判断に使えるか:迷ったときに、答えを出す助けになるか
- 他社に置き換えられないか:どの会社でも通用する言葉は、自社の理念ではありません
特に3つ目。美しいけれど、社名を入れ替えても成立してしまう理念は、残念ながら機能しません。
作ったあとが本番
理念は掲示した瞬間から風化が始まります。生かし続けるには、日常の中で使う機会が要ります。
- 朝礼で、理念に沿った行動を具体的に紹介する
- 採用面接で、理念に照らして人を見る
- 迷う判断の場面で、「これは理念に合っているか」と口に出す
おわりに
理念づくりに、正解の文章はありません。ただ、作る過程に社員が関わったかどうかで、その後の定着はまったく違ってきます。時間はかかりますが、その時間そのものに意味があります。
進め方の設計や、当日の場の進行もお手伝いできます。